俺の名前は桂木裕紀、何処にでもいる様な普通の高校生だ。そして、いかにも高校生らしい恋愛の悩みも持っている。悩みの内容は簡単、自分には恋人がいるのに他の女子から告白されたのに対して、どちらを選択するかを悩んでいるという、単純にして複雑な悩みだ。
今年の春、幼馴染みの早川遥が遠くへ引っ越した。しかし、そのおかげで俺は遥に、改めて正直になる事ができた。遥が俺の傍からいなくなった日、その時から俺たちの恋人としての交際が始まった。正確に言えば、文通を始めたのだ。
今年の夏、遥との交際が順調に進んでいた、と思われていたが、俺の前に一人の女子、西藤千夏が現れた。彼女、西藤は俺に好意を持っているらしく、俺も無意識の内に彼女に魅かれていき、遥との交流が滞り始めた。
* * *
朝、俺は目覚ましの音で目を覚ました。今の時刻はちょうど七時、学校に行くにしても多少の余裕ができる程の時間だ。ここ最近から、これくらいの時間に起きることができるようになった、というのも、今年の夏半ばまでは毎日遅刻が当然だったのが、秋に入った頃からやっと早起きができるようになったのだ。
俺は、食パンをトースターにかけ、朝食の準備をする。
ふと、玄関の郵便受けに目を向けると、そこには新聞の朝刊やチラシが、これでもかと言わんばかりに詰められていた。それを力ずくで引き抜き、要らないチラシを選別していると、一枚の封筒がチラシに混ざっているのを見つけた。
その封筒の差出人は遥だった。封を開き、中に入っている手紙を開く。手紙の内容は大したことも他愛もない話だ。しかし内容なんかはどうでもいい、ただ遥とのつながりを感じていたい、今年の夏からはそんな気持ちで遥との文通を続けていた。そこには、西藤のことを気にしていることの負い目もあるかもしれない。
俺は、遥からの手紙を机に置き、トースターから焼きあがったパンを取り、それをくわえて学校へ向かった。遥への返信は帰ってきてから書こう、俺はそう決めた。
しかし、俺は、今日で遥との文通を終える、という必然に気付く由もなかった。
* * *
通学路、俺はクラスメイトの関口幸生と出会った。幸生は、俺を見つけると、片手を額に当て、敬礼の真似事で挨拶を済まし、俺に話しかけてきた。
「よっ、食パンくわえながら登校とは、恋愛のフラグでも立たせるつもりか?」
「これ以上恋愛フラグなんていらねぇよ。ただでさえ、俺は二人のうちどっちを選ぶかで手一杯なのによ」
「おい、今の発言は世界中のモテない男達を敵に回すぞ? 俺でもかなりムカッと来たしな」
「あぁ、それじゃあ訂正しとく。でも、お前は無いのか? そういう事って」
「何の事だ? 全世界の男を敵に回す事か?」
「いや、違う。二人の女性を好きになってしまって、そのどちらかを選択しなけりゃいけない、って事」
俺の質問に幸生は首を傾げて答える。
「うーん、俺はそんな事は無かったけどな。まぁ、似たような選択は迫られたが」
「似たような選択? 参考までに聞かせてくれよ」
「ん? あぁ、簡単な事だ。一人の女を好きになっちまったが、そいつが俺のもとから去っていくのを見過ごすか、危険を承知でそいつを繋ぎとめるか、って事」
なにその、ドラマみたいなシチュエーション、という突っ込みは置いておき、俺はパンを全て口に詰め込み、幸生の話の続きを聞く。
「で、お前はどっちを選んだんだ?」
「決まってんだろ、命がけで繋ぎとめたよ」
そして、幸生は一息置いてから、俺に話しかける。
「お前、まだ早川と文通続けてんだろ?」
「あぁ、そうだけど、どうした?」
「最近、西藤との噂をよく聞くんだが、それはどうなんだ?」
「まぁ、あいつに気がないって言や嘘になるけどよ」
「お前、本当に二人の内のどっちかを好きなのか? そこがどうも俺には疑問なんだが」
「というと、どういう事だ?」
「つまりだ、俺は早川とお前が好き合ってる事は分かってた、そして西藤がお前の事を好きなのも察しはついてた。でも、お前が西藤を好きになる理由が明確じゃない。お前、告白されたっていう事実だけで満足しちまってるんじゃないのか?」
「そ、そんなわけ……」
否定はできなかった。俺の胸に幸生に言葉がグサリと刺さる。そして、幸生は俺に重い言葉をかける。
「そんな生半可な気持ちで早川に手紙を送ってたのか? もし、お前がこの状態をまだ続けるようなら、早川との文通は止めるんだな。早川が哀れ過ぎる」
そこまで言い終えた幸生は、今までの真剣な表情から一変して、普段のおちゃらけた様子で俺に言葉を続けた。
「ま、でも、そんな重く考えない方がいいぜ? 自分が本当に好きだと思う方につきゃいいんだしよ」
俺に背を向けて前へ進む幸生に俺は問いかける。
「お前、もしかして、遥の事……」
その問いに幸生が言葉を返すことはなかった。
* * *
放課後、俺は帰り支度を済ませ、帰路に着くことにする。その前に俺は、一人の人物の所へと向かう。
「西藤、ちょっといいか?」
俺は、隣のクラスで帰り支度をしていた西藤に声をかけた。
「あ、桂木君。ちょっと待ってて、今支度を済ませちゃうから」
「大事な話がある。少し時間をくれ」
そう言って俺は場所を学校の屋上に変えて、ある決断を彼女に打ち明ける。それを全て聞いた西藤は微笑みを浮かべながらも、悲しげに俺に言葉を投げかける。
「そう……、桂木君が決めた道だもの、私は文句なんて言わないわ」
彼女は堪えきれず、涙を流しながら言葉を続ける。
「でも、もう会えなくなっちゃうなんて寂しいな」
「ごめん、許してくれ」
俺は踵を返して、彼女を残しその場から去った。
……本当にこれで良かったのか。微かに聞こえる彼女の嗚咽が心に響いた。
* * *
自宅、俺は遥への手紙を書いていた。これが、俺と遥の最後の文通だ。
「最後、か。一年も続かなかったな、ごめん遥」
そう呟いて俺は手紙を書き終えた。手紙を書き終わった俺は、次にやるべき仕事に移る。
「さて、荷造りでもすっか」
そう、俺はこの町を出る。そして向かう先は、俺が本当に愛している遥がいる町、これが俺の出した結論だ。
別れの季節の秋、俺は多くのものとの別れを経験した。しかし、その別れの季節は同時に、本当に大切な者を俺に気付かせた。空が紅葉で真紅色に染まった、そんな日のことだった。
続く
後書き
こんにちは、初めての方は初めまして、雪鳥と申します。
今回は秋ということで、「別れ」をイメージして執筆させて頂きました。執筆中に「あれ? 秋=別れ のイメージ持ってるのって私だけ?」という事も多々ありましたが、まぁそこは作者がそんな思考回路を持ってるってことでお許しください。
今作品で出てきます、関口幸生くんは、私が前に作成しました作品の主人公であり、今作品では重要?なサブレギュラーとなっております。きっと、この後書きを読んでいる方の中には、幸生君の雄姿?を知らない方もいらっしゃると思います。もし、彼のことが気になりましたら、産技高専文芸同好会のホームページにあります、「季刊紹介」を御覧になってください。
えー、ここでちょっと話のネタ(というか雪鳥の頭のネジ)がなくなってしまいましたので、軽く雑談をさせて頂きたいと思います。
私、雪鳥が名前の割に寒さに弱いという話は、ホームページの「会員紹介」でも触れさせていただきましたが、その他の弱点や耐性を某ゲームのステータスのように、おふざけでまとめてみました。それが下段の通りです。
・ユキトリ
アルカナ……刑死者(笑)
斬撃……人並 打撃……吸収 貫通……弱
火炎……耐性 氷結……弱 電撃……人並 疾風……人並
スキル……コンセントレイト、チャージ、昼寝
……うわぁ、自分で書いといて難ですけど、実戦能力が全くなさそう。コンセントレイト(集中)からのチャージ(気合だめ)からの渾身の昼寝。これはひどい。
これ以上、皆様をお引止めするのも失礼なので、そろそろ私はこの辺でお暇させて頂きます。それでは、次のページへお進みください。