025 名無しさん(2003/04/23(土) 17:37:28 ID:ibubv7hv5ik) 

日本の各地には「避け地」と呼ばれる、伝染病隔離地区が

存在していました。 隔離された集落には、定期的に食料が

支給されていたのですが、 太平洋戦争が激化し、食糧難に陥り、

政府側は彼らを「見捨てた」のです。 

その事実を政府は、例の臭い物に蓋的に隠し続けてきた歴史が

あるのです。 犬鳴村がそうであるとは言いませんが、日本には実際に

存在する事は確かです。 皆さんの住んでいる近くで、山間部の人気が

ないところに、自衛隊のヘリが定期的に飛んでいる所が

有るんじゃないですか? この事は自衛隊内でもトップシークレットに属す事ですので、知っている人は少ないはずです。 

因みに、「避け地」に行く陸路はほとんど無いと考えられます。

 

 この書き込みを見つけたのは、三日前のことであった。

 書き込まれていたのは、オカルト好きなら誰もが興味を持ちそうな内容の文章であった。まあ、どうせこんなの嘘に決まっているだろう、そう読者の方は思ったであろう。だが、私は違った。なぜなら、私の職業は雑誌取材記者だから。もし本当に、このような場所があったら……これは良い記事になるのでは? 私はそう思った。

 私は早速、この記事についての情報収集を始めた。しかし、投稿者の名前が「名無しさん」である上、投稿日が今から十年前であるため、取材するには情報が不十分すぎた。わかっているのは、その場所が陸路の無い山間部に位置していること。自衛隊が関係しているということ。そして、候補に「犬鳴村」が挙がっているということだけであった。

 早速、その村について検索してみる。

「どれどれ・・・犬鳴村・・・あ、あった。」

 見つけたのは、犬鳴村に関する話を取り扱ったサイトであった。

 

〜犬鳴村〜

 犬鳴村とは、1889年まで福岡県に存在した村。かつて 林業や製鉄などで栄えていたが、現在は存在しない。また、村の中心地はダムの建設により湖底に沈んだ。

 近くに開通しているトンネルでは事故が絶えない等の理由により、入口はコンクリートで固められ、近くを走っている道路もフェンスで封鎖されている。

 トンネルの前には「白のセダンは迂回してください」という看板が立てられ、その横には朽ち果ててボロボロになったセダンが置いてある。

 また、この村やトンネルの周辺は森林となっており、携帯電話の電波が非常につながりにくく、公衆電話も使い物にならない。

「これが、犬鳴村……今はもう無いのか。じゃあ、確認しようが無いな。どうしよう……」

 悩んでいた私はもう一度文章を見返した。すると、あることに気づく。

「トンネルがあるということは、陸路あるじゃん。これじゃあ、さっき の書き込みと矛盾するじゃないか。どっちが本当なんだよ。ったく、この目で確認するしかないな……」

 そう思った私は、雑誌取材も兼ねて、明日、その村へ行くことにした。

 ちなみに、私の自宅からその村まで電車でおよそ半日かかる。まあ、その村は山間部にあるのだから、きっと足場も悪いだろう。何があっても良いよう、しっかり準備はした。

 日付が変わり、午前六時。まだ、辺りが薄暗い中、私は起床した。昨晩はよく眠れなかった。まあ、仕方のないことだ。だって、修学旅行の前日に眠れる奴なんているだろうか? 要するに、そういうことだ。

 眠い目をこすりながら、私は自宅を出た。近くの駅までかなりの道のりがあるので、運動不足の私はすぐにふくらはぎがパンパンになった。

こんな調子で大丈夫なのだろうか……。

 駅で切符を買い、やっと電車に乗る。疲れが足にきていた私は、空いている電車内の一番窓が大きい席に座った。窓には朝日が差し込んでいる。

 私が乗っている電車の向かっている方向は、私の知らない未知の世界である。どんな景色が見れるのだろう。期待に胸を膨らませた。

 しばらくして、見えてきた景色は一面が黄色でいっぱいのひまわり畑であった。

「うわ、すげえ……」

 しばらくの間、感動の声を漏らしていた私だったが、疲れていた私はその美しい景色を見ているうちに眠りについてしまった……。

 

 どれくらいたったのだろう。起きた頃にはすっかり景色が変わり、空にはどんよりと薄暗い雲が広がっている。車窓には水滴が2、3程付いているが、大丈夫、傘は持ってきてある。

 しばらくして、目的の駅に到着した。しかし、降りたのは私だけであった。そもそもこの駅に到着する前にほとんどの客は皆、どこかしらで降りてしまっている。それぐらいこの周辺は人気がない場所なのだろうか……。

 地図を頼りに私はひたすら前に進む。最初は整地されていた道路も進んでいくにつれて砂利道へと変わり、ついには道が途切れてしまった。

 辺りには雑草や木が生い茂っている。おかしいと思った私は地図を見直したが、地図に表記されている道路がそこには無い。諦めて帰ろうと地図から目線を離した私は驚愕した。目線の先には、地図には載っていない、あるはずのないトンネルがそこにはあった。入口はコンクリートで固められていて入ることができない。その前には木でできた看板がひとつ。その看板は長い間放置されてきたのだろうか、斜めに傾き、白い塗装は剥げていて、書いてある赤い文字はかすれていて読めない。

 サイトの内容はピタリと当たっていた。だとすれば、きっと近くに白いセダンがあるはず……と、辺りをくまなく捜索した。すると、すぐ傍の崖の下に何か白いモノが転がっていた。崖はフェンスと鉄条網によって隔離されているので、降りて確認することは出来なかったが、そのモノにはドア、窓が付いていたのが確認できた。あれは、間違いなく車である。

 私は、すぐさまトンネルの周りを捜索した。噂の村を求めて。しかし、そこにあるのは手入れをされていない雑草と木が生えているばかりであった。

 結局、その日は村を見つけることは出来なかった。朝早くから家を出た私の苦労は一体、何だったのだろうか……。日も暮れそうなので私は帰宅することにした。

 

 諦めきれなかった私は、帰宅してから、自衛隊に直接話を聞くしかないと考えた。早速、パソコンを開き、自衛隊のサイトへとアクセスする。

「電話番号……あった、これだ」

 見つけた電話番号にかけてみる。

「……はい、こちら陸上自衛隊防衛支局です。本日は、どのようなご用件でしょうか」

 電話口で対応したのは男だった。低い声のせいか、年齢は想像よりも高そうだった。

「あの、私、雑誌取材班の○○という者ですが、少しお話を伺いたくてお電話させていただきました」 

「お話……ですか……」

「実は、最近、犬鳴村という場所が話題になっておりまして、それに自衛隊が関与しているという噂が後を絶たないんですよ」

「……はい」

「もしよろしければ、その件について少しお話を伺えませんか」

「……ええと……少々お待ちください」

 少しの沈黙の後、再び男が電話口に戻ってくる音が聞こえた。

「……お待たせいたしました。その件ですが、そのような村は無いとのことです」

「そうですか……。お忙しい所有難うございました」

 とだけ言って、私はすぐに電話を切った。

 ここで私の取材は終わりを迎えた。もう調べることは無くなった。

 結局、この「避け地」の真相は分からないままだった。私はあの書き込みに踊らされていただけだったのだろうか。

 

         *   *   *

 

「全く、何でいつもこんな電話ばかりなんだ……」

「一体どうしたんです?」 

「いや、なんでもない……。気にせず仕事を続けてくれ……」

 電話口で対応していた男がこう言った直後、その男は忘れていたもの をふと思い出すようにこう続けて言った。

「どうやら最近、取材の奴らがウチらの周りを嗅ぎ回っているらしい。 お前も気をつけろよ」

「そんなことわかってますよ。そう簡単に口を滑らしたりなんかしませ んよ」

「ならいいのだが……。というか、そんなことよりお前、配達の準備は 整ったのか。もうそろそろ行く時間だろうが」

「そういえば、もうそんな時間でしたっけ。じゃあそろそろ行ってきま す」

 もう一人の男がそう言うと、早速、緑の制服に身を包んだ。黒く光る 革靴を履いた足が向かった先は、屋上。

 屋上には、沢山のヘリポートがあり、その円の中にプロペラが二つ程付いたヘリが数機止まっている。男はその中の一番大きなヘリに乗り込んだ。

「そんじゃあ、村の人たちに届けてあげましょうかね」

 そう男は言い、男と資財載せたヘリは人気のない山間部へと消えてい った。