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 一年前の3月31日――世界各地で奇妙な『変化』が起こった。

 生命を持たないはずの道具たちが、 いきなり人間の姿へ変わってしまったのだ。

 それらはまるで人間のように言葉を発し、人間のように感情と自我を持っていた。

 そしてその日以降、同様の『変化』が次々と起こり始める。

 物理的法則を超越して突発的に誕生する新たな人間たち――

 人々はそれを、MONO(Mind Of Nonliving One)と呼んだ

 生命ならざる物の心≠スちと、人類はどう付き合っていくのか……。

 

       *  *  *

 

「は〜あ、めんどくせ……」

 勉強机の電気スタンドだけを光源にした暗い部屋の中、俺の呟きが闇に吸い込まれていった。一人きりの虚しさを紛らわすために愚痴なんかこぼしているわけだが、「シ〜ン」という擬音語さえ聞こえそうなこの静けさの中では余計に虚しいだけだ。

 俺が着いている勉強机の上には、整然と数式が並べられた問題集と、ゴチャゴチャした汚い数式に侵されたノート。

 明日までに提出する微分積分の課題だ。しかし何分、問題の量が多すぎる。

 1週間前に出された課題なのだが、果たして先週からコツコツ解き進めていたとしても終わっているかどうか……。

 要するに、生徒の余暇というものを無視した自己中心的な教師による無理難題だ。それを提出前日まで放置してしまったものだから、事態はさらに深刻化している。

 授業の約半分を夢枕勉強法で済ましている俺の頭が、現在――午前零時から朝までフル稼働して解き終わるかどうかといったレベルだ。もう人生を諦めたほうが楽な気さえする。

 しかし、この世の理不尽を嘆いている時間さえ惜しいので、俺は再びシャーペンを動かし始めた。

「え〜っと、ここは部分積分? いや、部分分数分解するんだっけ……」

 舌を噛みそうなややこしい独り言を漏らしながら、なんとか問題を解き進めていく。こんな風だから、進行状況はあまり芳しくない。友人のノートから写した公式へ、適当に当てはめて計算しているだけだ。

「あ〜、また間違えたよ」

 どうやら計算方法が間違っていたらしく、問題は手詰まり。今まで何度もそうしてきたように、消しゴムを手に取って数式を消そうとした。

 しかし「消そうとした」なんて中途半端な言い方をした通り、俺はその数式を消すことが出来なかった。消しゴムを手に取った瞬間、信じられないことが起こったのだ。

 いや、実際のところ、何が起こったのかなんて未だによく分からないのだが……。

 

 ありのまま、今起こったことを話そう。

『俺はMONOの消しゴムを持っていたと思ったら、いつの間にか水色髪ツインテールの少女を持っていた』

 何を言ってるのか分からないと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった。

 頭がどうにかなりそうだった……というか既にどうにかなってるんじゃないかと思った。

 あらかじめ断っておくが、幻覚だとか妄想だとか、そんなチャチなものでは決してない。

 もっと恐ろしいMONOの片鱗を味わったぜ……。

 

 というわけで、状況を冷静に分析してみようと思う。

 まず、俺はさっきまで消しゴムを持っていた。安心と信頼の定番ブランドMONO、もちろん種も仕掛けも無い。

 そして次の瞬間には消しゴムが消え失せ、取って代わったように俺の指に挟まれていたのは小さな少女。

 この小さな≠ニいうのは普通に言うレベルではなく、本当に手の平に乗るぐらい小さい。というより実際に今、手の平に載せて観察しているのだ。

 しかも異様なのは大きさだけではない。彼女が来ているワンピースのような服は、明らかに消しゴムのスリーブだった。筒のような形状なのでチューブトップになっているが、胸元に見惚れるようなものでもない。

 何せ、まず肌の色が人間ではないのだ。白人どころの話ではなく、まるで消しゴムのように白い。というか、どう見ても消しゴムだろコレ。

 どうしたらいいのか分からないので、とりあえず机の上に置いてみた。状況が飲み込めないのは彼女も同じらしく、自分の手足を不思議そうに見つめながらパタパタ動かしている。

「で、いったい何者なんだお前は」

 言葉が通じるのかどうかさえ分からないが、まずは言語によるコミュニケーションを試行。すると彼女は不思議そうに俺の顔を見上げ、首を傾げながら言葉を発した。

「あれ? 私、自分で動いてる? どうして……」

「どう見ても動いてるだろうが。そんなことより、お前は何者なんだってば。なんで急に現れたんだよ」

 言葉が通じるようで一安心だが、相変わらず少女の正体は分からない。

 彼女は困った顔でしばらく思案した後、何かを閃いたようにポンと手を叩いた。

「そうだ、MONO化したんだ! 私、君の使ってた消しゴムだよ。急に現れたんじゃなくて変身したの」

「え、MONO化?」

 急に声量を上げてきた彼女の声にも驚かされたが、それ以上に彼女が言ったことの内容が意外だった。

 MONO化って、非生物が人間の姿に変化するって怪現象か。確か世界中で起こってるとか言ったっけ。

 てっきりエイプリルフールのネタだと思ってたのに、まさか本当だったとは……。親や先生まで騙されてるからおかしいとは思ったけど。

 それはさておき、なんだって俺の持ち物がMONO化してしまうのだろう。しかもこの大事な時に。

「とりあえず、消しゴムにもどってくれないか? そこの計算、間違えたから消したいんだが」

 ノートに書かれた数式を指さしながら俺が言うと、少女は自分の胸をポンと叩いた。

「それなら心配御無用」

 少女は軽やかにジャンプしてノートの上に着地し、その真っ白な足でグリグリと紙面を踏み始めた。すると不思議なことに、シャーペンの文字が見る見る薄まって消えていく。まるで元から字なんて無かったみたいで、消しゴムを使ったよりも断然綺麗だ。

「ね? 私がMONOになって良かったでしょ?」

 あっという間に一行分の数式を消し終え、自慢げに胸を張る少女。確かにスゴイ。でも――

「お前が消した数式、俺が消そうと思ってたところと違うぞ……」

 苦労して計算した俺の努力の結晶が、少女に踏みにじられて抹消されたのだ。これを悲しまずにいられるだろうか。

「あ、ごめんごめん、つい適当に消しちゃった。とにかく、一緒に頑張って勉強しようよ。せっかくMONOになったんだし」

 この厄介そうなガキと一緒に課題を進めていくことを想像すると、溜息が出た。どうしてこんなことになってしまったのだろう。

「仕方ないな……。お前以外に消しゴム持ってないし」

「やった! じゃあさ、せっかくMONO化したんだから、何か名前でも考えてよ」

 うるさいヤツだな……。

 消しゴムに名前を付けるとは、なんか妙な気分だ。我が子の名前でもあるまいし、適当でいいだろう。

「MONO子」

「うわ、テキトー」

 あからさまに渋い顔をされてしまった。いや、予想してたけど。

「まあいいや、これからは名前で呼んでね。じゃ、勉強再開」

 いいのかよ、というツッコミを胸の奥にしまう俺を尻目に、MONO子は机の隅っこで正座待機を始めた。俺が計算し損じるのを待っているらしい。

 なんというか、消しゴムの宿命ではあるのだろうが、失敗を期待するかのように俺のノートを見つめる姿を見ると苦々しいものを感じる。

 そんな感じで、俺と課題の厳しい戦いにMONO子も加わったのだ。

 

 それからしばらく時間が経った。

 草木も眠る丑三つ時、俺の部屋では未だにシャーペンの音がカリカリと鳴り続けている。この課題、全くもって終わる気配が見えない。

 MONO子も初めのうちは、消しゴムとしての悩みやら製造工場での思い出話なんかを語っていたのだが、やがて勉強の邪魔だと分かると静かになった。

 俺が「ここ消して」と言ったらそこを消す――それだけだ。消しゴムとしての働きはするが、それ以上に役立つわけでもない。

 と思っていたら、MONO子が急に立ち上がってノートの上に歩いてきた。

「ほら、そこは別の公式に当てはめるんでしょ。間違えてるよ」

 俺が書いている途中の計算式を、MONO子の足が容赦なく踏んづけた。そしてまるで俺の努力を無下にするかのように消していく。

「……俺も今、間違えたから消そうと思ってたんだよ」

「嘘ばっかり。この前も同じ間違いしてたでしょ?」

 そんなことあっただろうか……と思い返してみると、確かに先々週の小テストでも同じように間違えていた。

「あの頃はMONO化してなかっただろうが。なんで知ってるんだ、そんなこと」

「どこを消したかなんて身体に染み付いてるからね。間違えるポイントも自然と分かるの」

 こいつ、人が間違えたところをいちいち記憶してるのか……。消しゴムのくせに生意気なやつだ、個人情報にうるさいこの時代に。

「あ〜、なんか今のでやる気が失せた。ちょっと気分転換」

 俺は机を蹴って反作用を働かせ、椅子のローラーで後ろへ滑った。途中で身体を捻って振り向き、背後にあるパソコンラックへ身体を向ける。

 見事に定位置へ納まった俺はディスプレイのスイッチを入れ、すぐさまインターネットを開いた。そして画像掲示板の閲覧を始める。

「うん、今週はオッパイ祭りだ!」

「やらしい……」

 心機一転してハイテンションな俺と対照的に、机の上ではMONO子が不満げな言葉を漏らしている。

「ちょっとー、課題は? 時間ギリギリなんでしょ?」

「いやあ、もう集中力の限界。俺の代わりにやっといてくれよ」

 適当に言い返してMONO子のほうを振り返ってみると、いかにも不機嫌そうに頬を膨らませていた。代わりにやれというのは冗談にしても、放っておけばいいだろう。

 するとMONO子はいいことを思い付いたとばかりにピッと指を立て、意地悪な顔をして俺のほうを見た。

「そんなワガママ言っちゃっていいの? 君が頑張って解いた問題、みんな消しちゃうよ?」

 MONO子の足が紙面上の計算式を踏んだ。その踵が少し動かされれば、俺の努力は儚くも無に帰してしまうだろう。

 あの面倒臭い計算を初めからやり直す? そんなことをしたら俺は間違いなく発狂する。

「ちょ、ストップストップ! 分かったよ、マジメにやるから待てって!」

 今度はパソコンのラックを蹴り、先ほどと同じ動きを逆再生しながら勉強机へと戻る俺。ノートを人質に取られては仕様が無い。

「はあ、けっきょく息抜きにも何にもなってないし。ていうか、なんでお前はそこまで俺に課題を終えさせたいわけ?」

「ちゃんと課題を出さなかったら君が恥かくし、留年だって危ないでしょ。たった一人の持ち主だもん、そんな風にはなってほしくないの」

 呆れ顔でそっぽを向いたMONO子の口調は、少し怒っているように感じる。彼女からしたら何気ない答えだったのかもしれないが、俺からしたら少し意外だった。

 何か勝手な理由で俺に勉強をさせているのかと思っていたが、彼女は案外と俺のことを考えているようだ。

 そういえばMONO子からしたら俺のことをよく知っているわけで、突然に出会ったという感覚でも無いのだろう。俺のほうは消しゴムに愛着も何も無かったわけだが。

 MONO子にとって俺はどんな存在なのか、想像を巡らせてみると複雑な心境になってきた。

「ほら、ボーっとしてないで始めるよ」

「はいよ」

 そうして俺は再びノートにペンを走らせ始めた。

 

 それからというもの、課題の進行は順調だった。計算ミスなんかにMONO子が素早く気付いてくれるおかげで、後から書き直す手間が少なくなったためだ。

 連携と言うほどでもないが、俺とMONO子の息も合ってきたような気がする。こうして考えると、彼女がMONO化したのも無駄ではなかったかもしれない。

 そう思ってMONO子を見た時、俺は奇妙なことに気付いた。

「あれ……? お前、ちょっと小さくなった?」

 元から小さかったMONO子の身体が、さらに小さくなっているような感じがした。

「そりゃあ消しゴムだからね。使った分だけ縮むんだよ」

 MONO子は当然のことのように、俺が「ああそうか」と相槌を打ってしまいそうなほど当たり前な口調で言った。

 だが、それは俺にとって当たり前ではなかった。消しゴムは使えば縮む――当然のことのはずなのに、そんなこと俺の認識からはすっかり外れていた。

「ちょっと待てよ、それってヤバいんじゃないのか」

「別に平気だよ。だって私の身体なんて――」

「消しゴムだから、か?」

 俺の一言に言葉を遮られ、MONO子は驚いたように身をすくませた。俺自身、自分の口から出た言葉が思いのほか厳しい口調で、驚いていたのだ。

 消しゴムは消耗品――冷静に考えれば、何も間違っていないはずだ。

 だが俺は反論せずにはいられなかった。何か、自分の中に感情の軋みのようなものがあって納得できないのだ。

「冗談じゃないぞ……。たかだか字を消すだけに身を削るなんて馬鹿らし過ぎるだろうが」

「でも、私が消さないとダメでしょ? 間違えたままじゃ減点されちゃうし」

 そう言われると、俺は何も口答えができなかった。

 確かに、MONO子は俺のために身を削っているのだ。それはありがたいことではあるのだが、不甲斐ない自分に腹が立つ気持ちもあった。書き損じをするのも計算ミスをするのも、全ては俺の責任なのだから。

「MONO子、俺は……」

 何かしら口に出そうとしたのだが、何を言えばいいのか思い付かない。MONO子はよく分からないという顔をしながらも、気にせずに問題集を指さした。

「ほら、まだまだ問題が残ってるんだから。早くやらないと終わらないよ?」

 確かにその通りだ。これを解き終えないことには、MONO子の気持ちも無駄になってしまう。

 

 それから、俺は出来る限り書き損じをしないように課題を解き進めた。まあ俺にしては頑張ったと言えるだろう。

 しかし多少の計算ミスはあり、そのたびにMONO子は小さくなった。1回ごとの変化はわずかなのだが、多くの問題を解くうちに積み重なっていく。

 そのたびに俺はMONO子に申し訳なく思いながら、頭の悪い自分を情けなく思った。

 

 そんな風にして、どれだけの時間が過ぎただろうか。課題として指定された問題を全て解き終え、俺は静かにペンを終えた。

 時間の感覚なんて無くなっていたが、とにかく長い戦いだったことは間違いない。カーテンの向こうからは、早朝の仄明かりが滲み始めていた。

「やっと終わった……」

「うん、なんだか私も疲れちゃった……」

 俺の呟きに力なく答え、MONO子はノートの上にへたり込んだ。その身体は驚くほど小さくなっていて、俺の指先ほどしかなかった。

 今まで俺は問題を解くのに夢中で、MONO子の大きさなんて気に留めていなかったのだ。

「こんなに小さくなっちゃったのか……」

 改めて見て、自分がどれだけMONO子を酷使してきたか実感する。何度も書き損じて、何度も消してもらった――その小さな失敗の代償として、MONO子の身体は消費されたのだ。

 初めて会った時の、MONO子を指で摘まんでいた瞬間が懐かしく思えてくる。今の彼女に同じことをしたら、力加減を間違えて怪我をさせてしまうかもしれない。

 大して広くもない机の上を歩くだけでも、この小さな身体では大変だろう。

 ただでさえ小さくて不便なMONO子の身体に、さらなる負担を強いらせてしまう――それは間違いなく俺の責任だ。

「ごめんな、MONO子……」

 グッタリと座り込むMONO子へ、呟くように語りかける。申し訳ない気持ちが込み上げてきて、俺の両目からは涙が溢れ出した。

 消しゴムが小さくなったから泣くなんて、物の分からない子供みたいだ。たとえば、壊れた人形と死を結び付けて悲しむのが子供の心だとすれば、今の俺も同じようなものなのかもしれない。

 うつむいていたMONO子が、豆粒のように小さな頭を上げ、俺のほうを見上げた。彼女の瞳に映った俺の姿は、さぞかし情けない顔をしているだろう。

「どうして謝るの? どうして泣いてるの?」

 少し困ったように問いかけるMONO子の表情は、彼女がMONO化した時と同じだった。自分の置かれた状況が認識できていない――無知ゆえの困惑だ。

 もしかしたらMONO子は、ここまで自分の身体が小さくなってしまったことに悲しみを感じないのかもしれない。それが消しゴムとしての役目なのだから。

 しかし、そんな事実は俺の心に安心を与えるものではない。MONO子がどう思ったとしても、俺が積み重ねてきた過ちが消えるわけではない。たとえMONO子に許されようと、この後悔は消しようが無いのだ。

「どうしてって、悲しいからに決まってるだろ。そんなに小さくなって、つらくないのかよ……」

 自分の声が涙に震えているのが、よく分かった。この言葉は問いかけなどではなく、ただ俺が納得できない気持ちを吐き出しているだけに過ぎないのだろう。

 しかし、MONO子から返ってきた言葉は、俺の予想を上回るものだった。

「確かに、この大きさだと落ち着かないかな。デフォルトに戻るね」

「えっ!?」

 確かに「戻る」とそう言って、MONO子はヨイショと立ち上がった。そしてなぜか、髪を縛っているヘアゴムを外す。

 よく見ると、そのゴムの簡素な形状と色合いは輪ゴムそのものだった。髪をほどいてどうするのかと思って見ていたら、なんとMONO子は輪ゴムを口に入れて食べ始めた。

「ちょっ、何それ!?」

 呆気に取られる俺を尻目に、MONO子はスルスルと輪ゴムを飲み込んでいく。

 そして驚くべきは、MONO子の大きさが少しずつ戻り始めたのだ。植物の成長を早回しで見ているかのように、ムクムクと大きくなっていく。

 MONO子が輪ゴムを食べ終える頃には、ちょうど彼女がMONO化した時と同じ大きさに戻っていた。手の平サイズになったMONO子が、ノートの上で大きく伸びをする。

「う〜ん、やっぱりこの大きさが落ち着くなあ」

「えっ、えっ、なんでそんなこと出来んの?」

 呆気に取られたまま馬鹿っぽく聞いた俺に、MONO子は照れたように頭を掻きながら答えた。

「なんでだろ、あれかな、MONOとしての本能。なんか『輪ゴム食べれば再生するよ』ってキャラ設定に書かれてるような」

「もっと早く言えよ! 再生できるとか知らなかったし」

「だってー、さっき『私の身体なんて再生できるから』って言おうとしたら情熱ブロックされたし」

 ここに来てやっと、俺は自分とMONO子の間にある温度差に気付いた。事態は予想以上に深刻ではなかったらしい。

 俺はあまりの悔しさと恥ずかしさに歯噛みしながら、目尻に染みる涙の跡が一刻も早く乾燥することを祈った。

 まったく、本当に馬鹿らしい寸劇を演じてしまったものだ。自業自得とも言えるが……おそらく、説明不十分に俺をたぶらかしたMONO子が悪い。

 元に戻った身体でストレッチをしているMONO子を見ていると、なんだか手の平で叩き潰してやりたい衝動に駆られる。そのまま練り消しにでもしてやろうか。

 そう思いながらも、俺は心のどこかで微笑んでいる自分も感じられた。まあ、元に戻れたのだから良しとしようか。無駄に流れた俺の涙は賠償されるべきだが、今回は大目に見てやろう。

 呆れた溜息をつきながらMONO子の体操を見ていると、伸脚をしながら顔を上げた彼女と目が合った。そして俺は、何気なく思う。

「髪をほどいたところも可愛いんだな」

「ちょっと、そんな急に変なこと……」

 思うだけのつもりが口に出してしまい、言われたMONO子は真っ白な頬を桜色にしてうつむいた。俺の言葉で助詞の使い方が少しおかしかったことに、彼女は気付かなかったのかもしれない。

 カーテンの隙間から差し込む朝陽は赤みを帯びて強くなり、屋根の上では小鳥が鳴いている。外はもう朝へと変わっているらしい。

 さすがに寝てるヒマは無さそうだが、少し余裕のある朝の時間を過ごせそうだ。課題も終わったことだし、まずは机の上を片付けよう。

 そう思って見た時、俺は少しだけ面倒な事態に気付いた。

「MONO子、お前が伸脚したせいで字が消えてるんだが」

 せっかく俺が書いた数式は、MONO子が踏んづけたところだけ穴あき問題のようになっていた。どうやら、まだ戦いは終わっていないようだ。

「ありゃりゃ、ごめんね。まあちょっとだけだし、復習だと思って……」

 苦笑いをしながら頭を下げたMONO子は、反省しているのやらしてないのやら。

「またこのパターンかよ」

 俺は再びペンを取り、お仕置きにMONO子の背中を突ついてやった。

「痛ったー!」

 机の上に倒れ込んだMONO子。その無様なお尻に「ざまあみろ」と吐きかけ、俺は穴あき問題を解き始めたのだった。

 

 

 

 

 


   あとがき

 

 どうもこんにちは、鬼童丸です。今、自分で本文を読み返していて凄く恥ずかしいです。

 今回の作品は、とある匿名制の画像掲示板で私が投稿したものです。というわけで、いつもとはちょっと違う作風です。

 季刊に掲載する作品としてそぐわない部分は直したりしてますが、それでもちょっと雰囲気が違いますよね。

 なんかノリが軽いです。しかも妙に熱いです。世界観が説明不十分です。

 また、実はMONO子のキャラ設定を考えたのは私ではないです。もともとキャラ設定やイラストがあって、それに私が物語を付けたんです。

 どちらかといえばキャラ設定ありきな話なので、これだけでは読みづらいかもしれませんね。許可は貰ってるので、ここに設定本文を掲載しておきます。

(以下、掲示板より引用)

MONO子

見た目のまんま消しゴムがMONO化した女の子

性格は真面目で綺麗好き

勉強するフリして○○○(掲示板名につき伏字)見てたりオナ○ー(卑語につき伏字)してると叱ってくれる

鉛筆やシャーペンの字を消すと当然すり減るが

輪ゴムを食べるとなぜか回復する

緑や赤の色つき輪ゴムより正統派のノーマル輪ゴムが大好物

(引用終わり)

 MONO子のイラストは「MONO子 俺キャラ」で検索すると出てくるかもしれません。ゆめにっき関係ないですよ。

 

 ちなみに、本文冒頭に書いたMONO化という概念については、私が考えた世界観だったりします。なので、こういうMONOが出てくる作品をまた書くかもしれません。

 ほら、非生物の擬人化って素敵じゃないですか。楽しいじゃないですか。特に文房具とか。

 そういうわけで、思いっきり楽しみながら書きました。趣味全開です。

 

 今回は文章力の観点から見れば落ちてるような気もしますが……ほら、新入生が文芸同好会へ入りやすくするために敷居を下げたわけです。必要悪(この場合の悪は悪筆の意)なのです。

 そんなわけで、今回ばかりはお許しください。次回、マジで頑張ります。本当に頑張ります。

 

 では、最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

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