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 その日はいつもより気温が低く、寒い日だった。僕は上着のポケットに手を入れながら自宅のあるマンション目指して走っていた。幸いあまり距離はない。五分も走るとマンションの入り口についた。

 マンションに着くと、真っ先にエレベーターのボタンを押して、来たそれに乗り込む。

 自分の部屋のある階のボタンを押して、閉じるボタンを押したときだった。誰かが走ってくるのが見えた。急いで扉をあける。乗ってきたのは自分と同じ学校の制服を着た女子生徒。顔に見覚えがあったが名前は知らない。彼女は僕に軽く会釈すると、一つ上階のボタンを押して奥に入った。

 扉が閉まってかごが動き出す。一階、二階、三階とゆっくり階を通過していく。エレベーターの中は機械の稼働音しかしない。そして自分が降りる階にさしかかろうとした瞬間、異変が起きた。

 エレベーターの天井にある照明が消えたのだ。そして真っ暗になる。明かり一つもない暗闇。気づくと稼働音も消えて完全な沈黙が生じた。

 僕も彼女も声を発しない。

 彼女は何を思っているのだろう。でも、たぶん僕と同じことを考えているのは何となくわかる。

 僕らは閉じ込められたようだ。

 それがわかったとたんに僕はエレベーターについている緊急連絡ボタンを押す。このボタンを押すとこのエレベーターの製造元の会社に繋がって助けが呼べるシステムなのだが……。

 なにも反応しなかった。

 連打するようになんども押す。だが反応はない。近くのスピーカーからも雑音一つも入ってこない。

「なんで……」

 小さくつぶやく。電気が通っていないのだろうか。これでは緊急時にまったく役に立たない。

「そうだ、ケータイ」

 後ろから彼女の小さな声が聞こえてハッとする。そうだ、ケータイがあれば外に連絡できる。僕は彼女の方を向いてしばらく待った。こういう時の為にケータイでも買っておけばよかったと心底思う。

「うそ……圏外?」

 彼女の声は小さかったが確かにそう言った。ケータイのライトに照らされた彼女の目は少し光って、手はかすかに震えている。

 夢中で扉に手をかける。しかしどんなに力を入れても開かない。

 僕はそれからしばらく扉を叩きながら叫び続けた。

 

          ※

 

 三時間経った。いっこうに助けは来ない。

 既に二人とも立つのをやめて床に座りこんでいる。

 今日は本当についてない。購入したばかりのゲームで遊ぶつもりで早く帰ってきたというのに。予定ならもうぬくぬくした部屋でゲームをクリアしているはずなのに。

 はぁ、渡ため息をつく。

 横を見ると暗闇の中にかすかに彼女が見えた。先ほどまでケータイのボタンをいじっていた彼女もついにあきらめたらしい。ケータイの画面を見つめたまま、止まっている。

 彼女を見ていると視線に気づいたのかこちらを向いてきた。

 目が合った。

 彼女の目の部分がかすかに光って見える。彼女も僕もなにも言わない。

じっと見つめ合ってお互い何を考えているのかを読むように。しばらくすると彼女の方が無音を破った。

「助け、来ますよね。きっと」

 こころなしか声が震えている。なんと言えばいいのだろう。安心させなければならない。

「絶対来るよ」

 僕は自信無く言ってしまった。彼女の表情はむしろ暗くなって僕から目を反らした。合わせて僕も視線をそらした。なんといえばよかったのだろう。その問を自分にかけ続けたが答えは返ってこなかった。

 

         ※

 

 それからしばらくまた無言が続く。しばらくといっても何分経ったのか何時間経ったのかわからない。

 僕も彼女もじっと身を固めて動かずにいる。二人の距離は一メートルもないのだが僕にはなんだかそれ以上に離れている気がする。

 ふと、空腹を感じた。感覚的にはもう夕食をたべている時間を過ぎているようだ。そういえばコンビニで買った飴があるかもしれない。僕は鞄を開けて飴を探す。しかし暗い為、手探りで探すしかない。そうしてがさがさと音を立てていると彼女はそれに気がついて顔を上げていた。しばらくそうして探していたがいっこうに見つからない。

 気のせいだったか、と鞄を閉じようとしたとき手元が突然明るくなった。鞄を注視していた目を上げると彼女の顔が目の前にあった。

「どうぞ、すこし明るいと思います」

 彼女はケータイの画面のライトを向けてくれていた。小さく、ありがとうと返事をして探す。すると鞄の奥から大袋にはいったままの大量の飴が見つかった。それだけではない。昼食に弁当を買ったついでに購入した五百ミリリットルのペットボトルもみつかったのだ。これも未開封で口をつけていない。これで一日はなんとかなりそうだ。

 飴を大袋からだして一つ彼女に差し出す。一瞬遠慮するような仕草が見えたが彼女それを受け取って頬張った。僕も一つ取り出してほおばる。レモンの味がした。

「ありがとう」

 後に小さく、ございます、が聞こえた気がした。

「喉がかわいたら、ここに水があるから。ちょっと僕は寝るから」

 そういうと僕は身体を横にして目をつむる。足は伸ばせなかったが普通に座っているよりはずいぶんましだった。

「はい。お休みなさい」

 

       ※

 

 突然目が覚めた。直後凄い喉の乾きが僕を襲う。

 水を求めてつかんだペットボトルを、はっとして離す。貴重な水だ。できるだけ飲まないでおきたい。

 彼女、少しは飲んだのだろうか。蓋をすこしひねってみた。……堅い。彼女も僕と同じようにまったく水を飲んでないようだ。もしかすると申し訳なくて飲まなかったのかも知れない。

 ため息がでる。ペットボトルをつかんで、彼女の目の前においた。

「置いときますから飲んでよ」

 彼女はなにも言わない。まだ寝ているようだ。仕方ない、と手を離して手を引かせようとした時。

 腕を捕まれた。

 驚いて一瞬身が固まる。そして緊張が途切れぬうちに、また別の感覚が襲った。

 彼女の手は氷のように冷たかった。

 彼女エレベーターに乗ってきたときスカート姿だったのを思い出す。僕は謎の使命感に駆られて上着を脱いだ。そしてそれを彼女の身体にかける。これできっとないよりはましだろう。そして彼女の手をたぐり寄せて自分の膝の上で両手で包む。その手は本当に冷たく、背筋が震えるほどだった。

 しばらくするとだんだんぬるくなってくる。

 あと少しで元の温度になると思ったそのとき、彼女の一瞬手に力が入った。起きたようだ。

「起きたの?」

 すこしして返答が帰ってくる。

「はい」

 小さな声だった。だが先ほどまでとは違い声に元気があった。これならもう大丈夫だろうと手を離そうとする。しかし離せない。僕の方ではない手が僕の手を軽くつかんでいた。まるで「離さないで」というように。

 握り返せばいいのだろうか。僕は軽く力を入れて彼女の手を握る。すると彼女はさらに力を入れてぎゅっと握ってくる。手は先ほどよりもかなり温かくなっていた。

 このエレベーターが真っ暗で良かったと本当に思った。顔が熱い。こんな体験いままでにない。

「あのさ……」

「――はい」

 緊張を飛ばす為にだした台詞は、やっぱりというべきなのか上ずった。彼女も先ほどよりも大きな声で相当早口に答える。

「ペットボトルの水、飲んでないでしょ。飲みなよ」

 しばらくの無言の後に返答が帰ってくる。

「ありがとうございます。でも私、喉渇いてないので」

 遠慮している。即座に思った。本当に喉がかわいてないなら返答に時間はかからない。彼女はきっと考えたのだ。相手の迷惑と自分の都合をつりがねにかけて。

「いいから飲んで」

 少し強めに、真面目に言う。

「でも……」

「命令。飲んで」

 するとしぶしぶ、なのかペットボトルを握った音がした。カチ、という音がしてそれから小さく、喉を鳴らす音が聞こえる。一回ではなく何回も。相当喉が渇いていたのがわかる。

「ありがとうございます」

 恥ずかしそうに彼女は言った。

「あの……」

 彼女は言葉を続ける。僕は小さく相づちを打った。

「アオイさんも飲んでください」

 そう言ってペットボトルを僕の前の辺りにおく。……アオイ……蒼生(あおい)。なんで彼女は僕の名前を知っているんだ。そんなに僕は有名だったろうか。唐突に現れた自分の名前に戸惑う。

「君、僕の名前知ってるんだ」

「えっ?」

 彼女はまるで、当たり前のことを聞かれたような反応をする。どこで知り合ったのだろう。僕は彼女のことを顔しかしらない。もしかすると同じ学年だったりするのだろうか。

「同じクラスじゃ……」

「――そうだよね。ごめんごめん。混乱してた」

 笑ってごまかす。まさか同じクラスとは。こんなに近くにいた人だとはまるで知らなかった。

「そうですよね。私、クラスでもそんなに目立たないし」

「いやいや、そんなこと無いって」

 すこし声を上げて言う。そうだ、そんな事はない。

「僕が周りを見てないだけだから」

 そう。クラスでの僕は、他人から見れば異質だろう。全くなじもうとせずいつも読書に浸っているのだから。そのせいで友人は少ない。だがけして虐められることはなかった。させなかった。

「私、カエデです」

 カエデ、(かえで)だろうか。そういえばそんな名前の女子生徒がいたかもしれない。楓さんね、と言うと、

「さん、はいらないです。友達にもそう呼ばれていますから」

 友達か。彼女は僕と違う。違うのだ。僕は先ほど目の前に置かれていたペットボトルを手探りで見つける。重さは最初の半分くらいまで減っていた。また遠慮してすこししか飲まないなんてことがなくてよかった。ペットボトルの口を開けてラッパ飲みで口をつけないように飲む。残りすこしになった時僕は飲むのをやめた。すこし残しておけば役に立つかもしれない。そう思ったのだ。

 それからしばらくは無音状態が続いた。彼女も僕もなにも言わない。ただ手だけは握ったままだったが、先ほどのような熱はなかった。

 

            ※

 

 またしても何時間か過ぎた頃。

 僕はいつもの学校での自分を思い出していた。いつもの、部屋でゲーム三昧の自分なら絶対にこんなことを考えないだろう。それだけこの密室空間が暇なのだ。

 周囲の目が痛い。

 常に噂をされている気がする。

 僕を常に彼らは偏見しか無い目で見る。

 それが僕にとってのクラスの印象。そんなことは中学入学当日からわかっていた。学区域外から来た僕には友人もいない。僕は別に不便に思わず一人ですごしてきた。結果としての周りからの印象だ。前に僕の事を噂している生徒の話を盗み聞きした時も「根暗」「無口」「マニア」という偏見の単語しか聞こえなかった。

 僕が悪かったのだろうか。誰とも接しなかった僕が。たぶんそうだ。わかっていたのだ。こんなの可笑しい、普通じゃないって自分でも。

 そんな僕をすこし変えた出来事もあった。

 今年の運動会、クラスは優勝して打ち上げを教室で行っていた。クラスの中心のような人が「おれたちみんなの勝利だ」といかにも青春くさい台詞を言うと、教室の盛り上がりは最高潮に達した。その盛り上がりのない場所、教室の角に僕はいた。そこで持ってきた本を静かによんでいた時だった。誰かがやってきてその影で本が読めなくなる。顔を上げると同じクラスの女子生徒の誰かがいた。

「今みんな、の中に自分は入ってないと思いませんでした」

 そのときの僕はそんなことどうでも良くて、適当に肯定の返答をした、と思う。すると

「そんなこと、ないです。だって田嶌(たじま)君……」

「――誰よりも真面目に練習していました」

 見ていたのだ、この人は僕を。そこからは記憶がはっきりして無くて思い出せないが、なにかを感じていた。この学校に来て初めて経験するなにかを。

 それから少し周りに対する態度を変えた。完全無視はやめたし教室で本を読むのもやめた。だが変わらなかった。僕に染みついたイメージは濃くて誰一人絡んでくることはなかった。

「楓はさ、僕の事どう思う?」

 返事は無かった。寝ているようだ。むしろそれがわかっていて僕は言ったのかもしれない。

「根暗とか思ってるよね」

 何も聞こえない。吐息も、なにも。

「でもさ、これだけはわかってて欲しいんだ……」

「――僕は今のクラス嫌いじゃないよ」

 

    ※

 

「――僕はこのクラス嫌いじゃないよ」

 彼はこういった。私は間違ってなかった。彼は寂しがっていただけなのだと。

「ありがとう」

「な、なんで君がお礼を言うの?」

 彼の言葉は驚きに満ちていた。

 私はうれしかったのだ。今までの彼はまるで私達に興味がないように無視し続けて、それでも運動会以来は少し変わってくれたのに誰も彼を気づかなかった。でも私達を恨まずにいてくれた。それがわかったのがうれしかったのだ。

「私、蒼生さんをずっと見ていたんです」

 そう、彼の席のとなりになっていつも寂しそうに本を読んでいる彼を。

「見ていたんです。蒼生さんが運動会の後からすこし変わってくれていたのを」

 ここで言わなければならない。彼に。

「私……」

 顔が熱かった。このエレベーターに乗り合わせたときよりも、手を握ってくれたときよりも。果てしなく。

「――蒼生さんのことが好きです」

 言ってしまった。エレベーターには私の呼吸だけが響く。しばらくして彼は口を開いた。

「ど、どどうして僕が好きなの?」

 彼は困惑と驚きが混じった声で尋ねた。

「――ただの一目惚れだったんです!」

「入学式、蒼生さんを見て一目惚れしちゃって。でも声をかけられなくて。二年になったら同じクラスになって。でも声をかけられなくて」

「遅れて、ごめんなさい」

 貧血になって倒れてしまいそうだ。頭の中は風邪を引いたときよりも熱かった。

 

     ※

 

 正直意外だった。僕のことをこんなにも思ってくれてる人がいたことに。

 しかし意外過ぎて僕はどうすればいいのかわからない。なにか言わなければいけないのはわかっているが頭の中は飽和状態だった。

 彼女のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。運動会の時の人も彼女だったようだし。この気持ちを、ストレートに伝えてしまっていいのだろうか。それこそ本にでてくるような台詞で飾って……。

 いや、彼女、楓はそんな風な自分は望んでないんだ。僕も彼女のように勇気をださなければいけない。

「僕も楓のこと、好きだ」

「運動会の時、僕のことを気にかけてくれて。なにより僕の事を心配してくれてありがとう」

 顔が熱い。それにエレベーターの中がまるで暖房が効いているように熱い。

 僕は恥ずかしくてしばらく彼女に話しかけられそうもない。彼女もさっきの告白以来、静かになってしまった。

 しばらくすると楓が沈黙を破った。

「そ、そうだ」

 彼女は言葉を続ける。

「さっき私に上着かけてくれたでしょ。あれ、凄くうれしかった」

「うん、寒そうにしてたから。と言ってもあんまり暖かくなかったかもしれないけど」

 正直に言った。けど感謝されたのはうれしかった。

「そんなことないよ。私あのとき凍え死にそうだったもん。今も手、暖めてくれてるし」

 弱まっていた手が僕の手をしっかり、ぎゅっと握ってくる。僕もそれに習って握り返す。温かい。しばらく楓も僕もその余韻に浸っていた。

 

        ※

 

 あれから少し経った。

 しかし状況は改善してない。いまだに助けは来ていない。だがこの密室は先ほどよりも明るく温かい場所になっていた。と言っても電気がついたわけでもないし暖房がついたわけでもない。

「蒼生さんは、ここから出たら何がしたい?」

 唐突に聞かれた。

「家でゲームをするつもりだったけど、今はどうだろう」

 正直楓に申し訳なかった。普通はここで彼女とデート、なんて考えにいたるのが普通だと思った。しかし楓は、

「いいです、私は後回しで。でもいつか私をどこかに連れて行ってくださいね」

 情けないな、自分。こんなことまで楓に配慮されてしまうなんて。

「でも僕は普通の人がお出かけで使うようなおしゃれな店とかしらないよ、それでもいいなら……」

「かまいません。だって私蒼生さんと一緒にいられればそれでかまいませんから」

 ため息が出そうだ。なんて彼女は僕を思ってくれているのか。それに比べて僕はなにもしてあげていられない。そうだ、ここで僕自身を見せなければいけない。

 僕は思いっきり息を吸った。そして大きな声で、

「ここを出るぞぉ!」

 叫んだ。一瞬エレベーターの中が無音の空間になった。

「蒼生さん」

 笑っていた。クスクスと。僕も自分がしたことを笑ってしまった。

「おい、ここに誰かいるみたいだぞ!」

 外から声が聞こえた。

 急いで立ち上がり扉に取り付いて叩く。

「ここです、助けてください!」

 楓も僕に続いて扉を叩く。

「助けてください!」

 それからしばらくして僕たちは箱の中から救出された。それから病院に運ばれたが二人とも重大な損傷というのはなかった。病室は別の部屋だったが僕は楓に何回も逢いにいった。

 そして二週間後、学校に行ったらとても驚くことになっていた。事後でみんなの態度がまるで違かったのだ。みんな僕に普通に接してくる。友達もできた。あとからわかったことだが楓がクラスに宛てて、手紙を書いていたらしい。みんなにその内容を聞くがにやにやして教えてくれてなかった。だいたい察しはついていたが。

 

       ※

 

「好きだよ、楓」

 初めてのデートの日、待ち合わせ場所に来た彼女に唐突に言ってみた。

楓はいきなりパニックになってしまったが、落ち着いた後に言った。

「私も好きです」

 

 

 

 

 

 

 後書き

 

 始めに、編集さんには大変申し訳ないことをしたなと思っています。

 あと、これ展開が急すぎるな。

 書いててむかついた。自分の文章力の無さに。

 まあ時間がなかったとでも言っておこうか。ふふふ。

 

 

 ちょっと真面目な話になるけど、

 

 先日「文芸部」の部活から同好会への降格が決定しました。

 生徒総会でもしっかり審議された結果なので私に悔いはありません。むしろこれから汚名を挽回できるようにがんばっていく所存であると言っておきます。

 部活降格反対に投票してくださった方にはここで深くお礼申し上げたいと思います。

 そして部活の五年の先輩方には大変ご迷惑をおかけしました。なんだかんだ言って最後の最後までしっかりお世話になってしまって。

 

 最後に、同好会になってもしっかり毎回冊子は制作しますのでこれからもよろしくお願いいたします。

 

追伸

 私、和墨ごとパスカですが、文芸同好会(仮)の広報担当になりました。うん。がんばるよー

 

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