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 とある放課後の教室の窓辺で、少女は深い溜息をついていた。

 彼女の名前は山吹(やまぶき)()(れん)。私立(はな)ノ宮(のみや)高等学園の二年生である。

「あ、花蓮。溜息なんかして、どうしたの?」

 花蓮に一人の少女が話しかけてきた。花蓮のクラスメイトの早川(はやかわ)(じゅん)だ。

「あぁ、ちょっとね。恋……なんかしてみたいなーって」

「たぶん、無理じゃない?」

 頬を赤らめて答える花蓮に純はそう言い放つ。

「な、無理って。なんで?」

「えーと。まず、時間にルーズでしょ。それに、面倒なことは全部人に任せるでしょ。それから――」

 純がそこまで言うと、花蓮は顔を真っ赤にして純の言葉を遮った。

「わかった! もうわかったから、それ以上は言わないで!」

「ま、でも性格さえどうにかすれば、花蓮って普通にモテると思うよ」

 純はそう言い残して教室を後にした。

「私、そんな風に見られてたのか……」

 数分後、花蓮は肩を落としながら帰路についた。

 

     * *

 

次の日の朝、花蓮は寝起きでボンヤリした眼を擦りながら登校して、特に意味もなく目の前を歩く男子の一団を見ていた。彼らは、花蓮と同じ学園の生徒で、雰囲気から察するに一年生だと思われる。他愛のない話で盛り上がっている彼らの中で一人だけ、話に参加できずにまごついている少年がいた。

花蓮は、後姿しか見えないその少年のことが、何故か無性に気になり、通り過ぎざまにその少年の顔を見ようと考える。

そして、花蓮がその一団の真横に出て、その少年の顔を確認すると、それは端正な顔立ちの美男子だった。

「うそでしょ?」

 花蓮は思わず言葉をもらし、その少年を凝視してしまう。

 しかし、流石にそこまでしてバレないわけはなく、花蓮は注目の的となった。花蓮はその空気に耐えられず、走ってその場を離れていった。

「あの男子が、私の運命の人に、違いない」

 花蓮は息を切らして走りながら、そんなことをつぶやいていた。

 

 少年らはそのころ、大変驚いていた。

「今の、何だったんだ?」

「さぁね。ずっとこっち見てたけど」

佐々木(ささき)、お前はどう思う?」

 少年らの内の一人が、あの美形の少年に答えを仰いだ。

「え、あの、僕はその――」

「なんだよ。ハッキリ話せよな」

 佐々木少年は、か細い声で一言「ごめん」とつぶやいた。

「別に、謝る程のことじゃないけどさ。絶対その性格で損するぜ」

「というか、その顔で恋愛経験ゼロってのも結構な損だよな」

「アハハ、違いねえや」

 一人の少年が皮肉気味に言うと、それに何人かが笑い出した。

「うるさいやい」

 蚊の鳴くような声で佐々木少年は怒りを訴えた。

 ここで佐々木少年、佐々木(おう)()の紹介をすると、彼は生粋の小心者で、まるで草食系男子を絵に描いたような性格で、その外見は端正で誠実さを醸し出している。そんな男子である。

「ん? 佐々木、何か言ったか?」

「い、いや何も言ってないよ」

 小声の反攻に気付かれそうになった桜夏はその場を誤魔化した。

 

 

 数分後、花蓮が教室に入った。すでに数人が登校していて、それぞれが思い思いの行動をとっている。その中に花蓮の友人、純の姿もあった。

「花蓮、お早う。なんか今日は、また格段と幸せそうな顔してるね」

「えへへ、実はね」

 花蓮は今日の朝の出来事を純に話した。すると、純は深い溜息をついてこう告げる。

「いや、あのさ。それって第一印象めちゃくちゃ悪いじゃん」

「え? なんで?」

「だってさ、考えてもみな。見ず知らずの女が、ずっと見てくると思ったら突然走り去って行ったって。どう考えても変態か不審者だから」

「う……」

 その指摘に花蓮の顔は青ざめていく。

「ま、それでも大丈夫って思うんなら、別に大丈夫じゃない?」

 純がそう言うと、始業のベルが鳴り花蓮らも席についた。

「純ってホントに友達だよね?」

 席についた花蓮は、純の辛辣(しんらつ)さのあまり独りつぶやいた。

 

 

 放課後、花蓮は正門前にいた。校舎から出てくる人数は少なく、大半の生徒が校舎内にいると思われる。

「授業中ずっと考えてたけど、確実に会うならばここで待つのが一番ね」

 どうやら、今朝の男子が下校するまで門前で待つつもりらしい。しかし、いくら待つと言っても都合よく相手が現れるわけでもない。さらに今の季節は秋だ。夏と違っていつまでも暖かいはずがない。花蓮の体は、陽が暮れるにつれ確実に冷える一方だ。

「寒い……。こんなことならマフラーとか手袋とかしてくれば良かった」

 花蓮の手は寒さのあまりかじかんでいた。しかし、それでも彼は現れず時だけが無情に過ぎていく。辺りが暗くなり始め、流石の花蓮も諦めかけたその時、一人少年が校舎から出てきた。それは、紛れもなく今朝の少年、桜夏だった。花蓮はあらゆる感情で胸がいっぱいだった。

「ひょっと、ひふはへははへんほほ?」

 それが、桜夏に浴びせた初の言葉だった。本人は「ちょっと、いつまでまたせんのよ?」と言いたかったようだが、鼻水の影響で意味不明な言葉に変貌してしまった。

「へ? ぼ、僕ですか?」

 桜夏は花蓮の言葉を理解できなかったが、自身が彼女を怒らせている。そして、その怒っている女性は今朝の人だ。という状況は把握した。

「何でこんなに帰るのが遅いのよ!」

「え、あの。部活やってましたんで……」

 花蓮は一度大きく鼻をすすり、やり場のない怒りを彼に浴びせた。

「で、あの。あなた誰ですか?」

 桜夏が恐縮気味に聞くと怒りの収まらない花蓮は答える。

「私は山吹花蓮。あんたは?」

「僕は、佐々木桜夏です。えっと、僕に何が?」

 用事を尋ねる桜夏に花蓮は言い放つ。

「あんたに一目惚れしたの! あとは言わなくてもわかるでしょ!」

「え? わかりません」

「鈍いわね! 付き合って欲しいの!」

 花蓮がそこまで言って、桜夏はやっと自身の置かれている状況に気付いた。

「え? 告白ってことですか?」

「そうに決まってんでしょう! で?」

「は、はい?」

「いいのね? よかったー」

 花蓮の問いに桜夏は聞き返しの意味合いを込めて答えたつもりだったが、当人には伝わらず、承諾の意味合いとして受け止められたらしい。花蓮は安堵の表情を浮かべ、一方的に話を進めていく。

「えっと、それじゃあ明後日の土曜にデートしましょう。あとは……」

「あ、あの? ちょっと?」

「ま、細かいことはいいか。とりあえず、土曜にまた会いましょ。待ち合わせは、学校の前で朝の十時ね」

 そこまで言うと、花蓮は踵を返しその場から去って行き、一人取り残された桜夏は、茫然としてその場に立ちすくんでいた。

 

     * *

 

翌日、桜夏は一人で登校していた。

昨日起きたことは夢だったのか。そうだ、夢に決まっている。そんな事を考えていたが、その考えは即座に打ち消されることになった。後ろから誰かに肩を叩かれ、振り返ると昨日の女性、山吹花蓮が立っていたのだ。

「ちょっと。彼女を無視して一人で登校なんてひどいんじゃない?」

 考え事をしながら歩いていて気付かなかったが、どうやら彼女を素通りしていたらしい。

「ごめんなさい。でも、無視するつもりは無かったんです」

「ま、いいわ。でも明日は無視なんかしないでよ。ずっと一緒にいるんだから」

「あ、あの。変な噂がたっちゃうとお互いに大変なんで――」

「やだ、照れてるの? そうね。これ以上苛めても可哀そうだし」

 そう言うと花蓮は念を押すように「土曜。忘れないでよ」とだけ言い残してその場から去って行った。

「夢じゃなかった。どうすればいいんだ?」

 桜の桜夏の悩みは膨らむ一方で、それは教室に入った途端爆発的に大きくなる。

「佐々木。お前一コ上の先輩と付き合い始めたって本当か?」

 教室に入って始めに飛び出してきた言葉だ。その他にも色々な憶測が飛び交っているらしい。

「い、いや。というか、なんでそんな話に?」

「聞いた奴が何人もいるんだよ」

「何を?」

「登校中の先輩が、桜夏君とデートするって鼻歌まじりに歌ってたことだよ」

 愕然とした。どうやら桜火と別れた後も上機嫌で、たぶん無意識に歌っていたらしい。

「で? 実際のところはどうなんだ?」

 そう問われたが、どう答えればいいのかわからない。とりあえず、生返事を返してもクラスメイトのテンションは一向に上がっていく。今でならパパラッチから逃げる海外の有名人たちの気持ちが痛いほどわかる。桜夏はそう思っていた。

 その一方で、花蓮のクラスも盛り上がりを見せていた。

「花蓮、年下の彼氏できたって本当? しかもイケメンなんだって?」

「どうやって知り合ったの?」

 そんな質問に花蓮は得意げに答えていた。

「本当よ。知り合ったっていうか、私の一目ぼれでダメ元アタックしたら二つ返事でオーケーって」

 花蓮が多少尾ヒレをつけ答ると、クラスメイトからは歓声にも似た声をあげている。今でなら、スキャンダルを起こしてでも目立ちたがる人の気持ちがよくわかる。花蓮はそう思っていた。

「ちょ、ちょっと花蓮!」

 今登校してきた純が、怒りのこもったような声で花蓮のことを呼ぶ。

「純、どうしたの?」

「どうしたのじゃないでしょ。こんな騒ぎ起こして、あんた相手のことちゃんと考えてあげてるの?」

「え? ど、どういうこと?」

「今、登校してきてみたら、一年の教室が大変なことになってるじゃない。あんなに人が群がっちゃ身動きもロクに取れないわよ」

 花蓮は黙り込んでしまう。確かに、今日は確実に調子に乗りすぎている。それに、自分のことばかりを考えていたせいで、桜夏に迷惑かどうかなんて少しも考えていなかった。

「私の聞いた話だと、明日デートなんだって? 最悪、その時にでも一度謝っときなさいよ。そうでもしないと相手の子が可哀そ過ぎるでしょ」

 純はそのまま踵を返して自身の席に向かう。花蓮の耳には、今までは気持ちが良かったクラスメイトのざわめきがノイズのように響いていた。

 

     * *

 

 土曜日の朝十時、桜夏はジーンズに七分袖のシャツで上にベストを羽織ったという出で立ちで花蓮を待っていた。

 すると、少し離れたところから走ってくる花蓮の姿が見えてきた。桜夏は花蓮が近くまで来るのを待つとタイミングを見計らって怒りをぶつけた。

「昨日、僕がどれだけ苦労したと思ってんですか? それに――」

「ごめんなさい!」

 桜夏の怒声を遮り、花蓮は深く頭を下げ謝る。

「私、好きな人と付き合ったりとか、そういうこと今まで一度もなかったから、つい嬉しくなって、皆に自慢したかったの」

 涙ながらに謝罪する花蓮を見て、桜夏は驚き、そしてそれ以上責める気になれず、彼女を許すことしかできなかった。

「そ、そこまで謝られても困ります。顔をあげてください」

「許してくれる?」

「はい。許します。だから泣くのは止めてください」

 それを聞くと、花蓮は嗚咽(おえつ)を漏らしながら桜夏に抱きつき耳元で「ありがとう」と囁く。突然の抱擁(ほうよう)に桜夏は顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

「ちょっと! 恥ずかしいですから止めてください!」

 桜夏は必死に引き離そうとするが、花蓮の方も負けじと抵抗する。

「離してほしかったら敬語とか止めてよ。デート中は上下関係とか抜きだからね」

「わかりました! あ、いや、わかった! だからもう離して、山吹さん!」

「まだ駄目。苗字じゃなくて名前で呼んで。さん付けも無しでね」

「か、花蓮っ、離して!」

 その言葉でやっと花蓮は桜夏から離れた。さっきの涙はどこへやら、花蓮はイタズラな笑みを浮かべている。桜夏はそんな彼女を見て「さっきの謝罪は演技かよ?」と文句を言いたかった。しかし、今の彼は激しく脈打つ心臓の高鳴りを抑えることだけで手一杯なため、それは叶わなかった。そんな状態の中、彼は心の中に怒りの感情の他に、もう一つ今まで感じたことのない気持ちを感じていた。

 

     * *

 

 二人が合流してから数分が経った頃、彼らはまだ同じ場所に居た。

「で、どうするの?」

 花蓮の方がそう切り出すと、桜夏は狐に抓まれたように切り返した。

「え、どうするって、何を?」

「もしかして、何も考えて来なかった?」

 どうやら、互いに、相手が何かしらの計画を立てていたものだと思っていたらしいが、結果的にどちらもノープランでいた事が今更発覚したようだ。そこで、花蓮がリーダーシップをとり、即興で計画を立てることにした。

「まったく。こういうことは男子が事前に考えとくもんよ」

 今回のこのデートは全て花蓮が勝手に決めたことだったが、彼女はそのことを棚に上げ、理不尽な文句を漏らしながら腕を組み、これからの計画を考え始めた。

「うーん。初デートの定番って何だろ? カラオケ、買い物、食事……。いや、違うかな。とりあえず、どこか時間潰せる所で遊びながら考えるか」

 考え事がまとまったようで、花蓮は腕組みを解き桜夏に声をかける。

「桜夏、行くよ。とりあえず、どっか暇つぶしできる場所に入ってから後々のことは考えよう」

「あ、うん」

 そして、やっと歩き始める。という所で、花蓮はハッと何かを思い出したような素振りを見せる。不思議に思った桜夏は彼女に問いかける。

「どうしたの?」

「いや、一つだけやりたいこと思い出したの」

「何を?」

 桜夏が、花蓮の言うやりたい事の内容を聞くと、花蓮は桜夏の腕をとり、その腕を抱く形で体を密着させる。

「彼氏ができたら、一度はこういうのやってみたかったの」

 満足そうに微笑む花蓮の隣で、桜夏は緊張のあまり顔が引きつって、薄ら笑いしているような表情になっている。しかし、花蓮はそんな事にもお構いなしに、自分のペースで歩き始める。それに合わせて桜夏も速足気味に歩き始めた。

「ここから近い所にゲーセンがあるから、そこに行ってみようよ」

「あぁ、うん」

 花蓮の提案で行先も決まり、彼らの初デートが本格的に始まった。それは彼らが合流してから、実に四十分程経ってからのことだった。

 

     * *

 

 それから数分後、彼らは目的のゲームセンターにいた。室内は、土曜日のためか、彼らとそれほど歳の離れていないであろう少年少女といった若年層の客が大半を占めていた。だが、室内を全体的にみると、空席が目立ち、今日は空いている方に思える。

 そんな中彼ら、花蓮と桜夏の二人はクレーンゲームが集中している一角にいた。

「わぁ、見て。あのぬいぐるみ、超かわいくない?」

 クレーンゲームの箱の中にあるぬいぐるみを指さし、花蓮は桜夏にそう言う。しかし、当の彼はあまり関心を示していない様子で、苦笑いしているような顔で相槌を打つだけである。その対応を不満に思った花蓮は、桜夏に理想の対応をするように求めた。

「いい? こういう時は、相槌を打つだけじゃなくて、俺がとってやる的なことを言ってやるのが王道じゃないの」

 王道かどうかは知らないが、ここは、クレーンゲームでぬいぐるみをとらなければならない、と思った桜夏は、桜夏は百円玉を二枚取り出し、クレーンゲームに挑戦する。しかし、実のところ、彼はクレーンゲームをしたことがほとんどなく、勝算は零に等しい。

「よし、ここかな?」

 三回のチャンスの内の一回目、クレーンがぬいぐるみに触れはしたが、掴みあげることはできなかった。二回目、勢い余ってレバーを傾かせすぎ、見当はずれな場所へクレーンは降りていく。そして、半ば諦めかけた三回目、慎重にレバーを引き、ぬいぐるみの真上へクレーンを移動させる。すると、クレーンはそのままぬいぐるみの首を掴み、持ち上げる。その間、ぬいぐるみはぶれることなく引っ張り上げられ、賞品の出口へと向かっていく。その成功を誰よりも驚いたのは、桜夏自身だ。

「とれた……?」

「凄いじゃん、桜夏!」

 花蓮は桜香に称賛の言葉を投げかける。それを受ける桜夏の表情は、自然と笑顔になっている。

「あ、そうだ。これあげるよ」

 桜夏は戦利品のぬいぐるみを花蓮に渡す。それを貰った花蓮は子供のように喜び、無邪気な笑顔をのぞかせる。

「ありがとう、桜夏」

「あぁ、どういたしまして」

 桜夏は喜ぶ彼女の姿を見て笑みをこぼす。ふと彼が腕時計に目を向ける。時計の文字盤は、十一時半を示している。

「もう十一時半か」

 彼の独り言に花蓮が反応する。

「十一時過ぎてる? どうりで、お腹が空いてくるわけだよ」

「それじゃあ、どこかお店に行く? どこでもいいなら、近くに美味しいって評判の店があるから案内するよ」

「お、少しは気を遣えるようになったじゃん。偉い偉い」

 そう言うと、彼女は桜夏の受け答え方を褒め、彼の頭を撫でる。頭を撫でられた桜夏は、照れながらも、これくらいならやればできると得意げな表情をしている。

「よし、お店が混む前に食べに行こう!」

 はりきった様子の花蓮はゲームセンターの出口の方へ走っていく。それを桜夏が追いかけ、次なる目的地の大雑把(おおざっぱ)な説明をする。

「ここからは、ほんの五分、十分の所にある喫茶みたいな店なんだけど。ランチが充実しているらしいんだ」

「へぇー、そんな近い所にあるんだ」

 そんな雑談を交わしながら、彼らは桜夏を筆頭に、次の目的地をめざす。

 

     * *

 

 約一時間後、桜夏は戦慄していた。それは、花蓮の目の前に積まれている二、三人前であろう皿の残骸が大きな理由の一つだろう。別腹という単語は聞いたことはあるが、これほどのものとは思いもしなかった。といわんばかりである。

 食べる前には、「二人で食事しても、二千円程度で済むだろう」と考えていた桜夏だったが、現実では予想の倍ほどの料金を払い、内心ショック状態だった。

「美味しかったね、桜夏」

「ん? あ、あぁ」

 本当は割り勘で払って欲しかった。とは言えず、桜夏は相槌しか打てなかった。

「そうだ。今度は映画なんてどう?」

 今度は花蓮の思いつきで、離れた場所にある映画館へ映画を観に行くことになった。

「ね、ねぇ? 映画館行くのはいいんだけど、せっかくだから歩いて行かない?」

「えぇ、何で? バスだって通ってるんだし、それで行けば早く着くじゃん」

「い、いや。それもそうなんだけど、せっかくのデートなんだし、ゆっくりと話しながら行こうよ」

 そう言う桜夏だが、これは建前の一つで、本音を言うとさきほどの食事で、予想外の出費をしたので、ちょっとした節約の意味もあった。しかし、そんな事も知らない花蓮は戸惑いながらも嬉しそうに答える。

「し、仕方ないなぁ。そこまで言うなら、別にゆっくり話してあげない事はないんだけど……」

「ごめん。ありがとう」

「あ、ありがとうなんて、私でよければいつだって話くらいはしてあげるわよ?」

 様子から察するに、彼女は本当に照れているようだ。

 

 それから一時間ほどで、目的の映画館に着いた。

「やっと着いた。何見る?」

 花蓮が上映中の映画のポスターを指さし尋ねる。桜夏はそれを見て悩んだ。三枚あるうちの一つは恋愛ものの映画で、二つ目がホラー系、最後の三つ目がアニメの劇場版だ。ここで下手な選択をすれば、また文句を言われてしまうだろう。そう感じた桜夏は、花蓮に判断を仰いだ。

「花蓮はどれがいい?」

「えっと、じゃあコレ」

 彼女が選んだのは、アニメ映画だった。時折、デートの定番を語ってきた花蓮なら、一つ目ないし二つ目の選択肢を選ぶだろうと思っていた桜夏にとっては、この選択はかなり意外に思えたらしく、驚きが表情に浮かび上がっている。

「何、嫌?」

「いいや、別に」

 そう言い、桜夏はその場を切り抜け、チケットを買い求めに行く。券売所は空いていたため、彼はほんの四、五分ほどでチケットを買うことができた。

「行こうか」

 桜夏が花蓮を呼び、チケットを渡す。そして、二人は上映室の方へ向かっていった。

 

     * *

それから約二時間後、桜夏は上映室の座席で目を覚ました。どうやら、映画が始まってすぐに眠り込んでしまったらしい。眼前のスクリーンには、何も映っておらず、照明も所々付き始めている。ふと、隣に座っていた花蓮の事が気になった彼は、右横の席をみた。そこには、まだ花蓮がいた。しかし、彼女は眠っているようで、小さな寝息を立てている。

「花蓮?」

 その一言で彼女は目を覚ます。彼女は慌てた様子で弁解を始めた。

「ね、寝てたわけじゃないからね。ただちょっと、考え事してて、目を瞑ってただけなんだから、誤解しないでよ」

 言い訳を聞かされたところで、今まで熟睡していた桜夏には、大して関係はない。だが、彼女も自身同様眠っていたのは事実だろう。そう考えた桜夏は、ただ、一言だけ声をかけた。

「大丈夫。わかってるから」

「な、何が? 言っておくけど、嘘じゃないからね。ねぇ、聞いてる?」

 それ以上彼は何も突っ込まず、席を立つ。彼女もそれに合わせて立ち上がり、二人一緒に上映室から出ていく。上映室から出てすぐの人気のないエントランスに入ると、窓ガラス越しに真紅色の夕焼け空が目に入った。桜夏が時間を確認すると、既に四時過ぎになっていることが分かった。

「花蓮、今日はそろそろ帰るか」

「そうね。暗くなる前には家に入ってたいしね」

 そう言って映画館から出ようとする花蓮を、桜夏が引き留めた。

「ちょっと待って。幾つか言いたい事があるんだ」

「何?」

「今日はとても楽しかった。ありがとう」

「どういたしまして。また来週にでもまたどこかに行こうよ。なんせ、私たち付き合ってんだから」

「そのことんなんだけど……」

 桜夏は一呼吸おいて言った。

「僕らはまだ恋人なんかじゃない」

「え?」

 その言葉に花蓮はショックを隠せずにいられないようだ。激しく動揺しているようで、質問を聞き返す声も震えている。

「何で? だって、私が告白した時に、はい、って言ってくれたじゃない」

「その時、確かに僕は、はいと言ったけど、ニュアンスが違ったんだ。僕は質問を聞き返す意味合いを持って、はいと言ったんだ……」

 桜夏の言い分に花蓮の感情が爆発する。

「じゃあ、何? 今まで、私のことを鬱陶(うっとう)しい奴だとしか見てなかったの? さっき楽しかったって言ったのも嘘なの?」

「だから」

 桜夏が声を張り上げ、パニック状態の花蓮を制する。

「だから、曖昧な返事なんかじゃなくて、しっかりと返事を返させて欲しいんだ」

 そう言うと、桜夏は彼女の前に(ひざまず)き、右手を差出して言う。

「僕も、あなたの事が好きになりました。改めて、恋人として付き合って下さい」

 花蓮は彼の手をとり答える。

「喜んで、お受けします」

 いつの間にか、秋の夕空が彼らを祝福するかのように、辺りを色づかせ、彼らの頬をほんのり赤く染めていた。

おわり


 こんにちは、雪鳥です。読み方は「ゆきとり」でも、「せっちょう」でも構いません。ただ、私的には、前者の方が嬉しいです。

 

 最近、突然寒くなりましたね。私、雪鳥は、名前に「雪」の字が刻まれてるのにも関わらず、寒さに弱い体質で、二二、三度前後の気温でもすぐに体調を崩してしまいます。皆様はどのように日々を過ごされていますか?

 

 ここからは、私、雪鳥の私事についてお話しさせて頂きます。もし、「次のページがどうしても気になる」、「私事なら興味がない」などといった方々は、このページを飛ばしてしまっても構いません。

 

 それでは、お話させて頂きます。実はついこの間、幼稚園時代からの友人を訪ねに長野まで行きました。その友人は、陸上部に所属している方で、一年に三日ほどの割合でお会いしています。今年もお会いして来まして、元気を頂いてまいりました。その旅の帰りのことなのですが、とあるお土産店で、衝撃を受けました。

 そこには、お菓子が並んでいました。しかし、ただのお菓子ではありませんでした。そのお菓子にはハッキリと「雷鳥」の二文字が刻まれているではありませんか。

 そう、私、雪鳥は、知らず知らずのうちに、「雷鳥の里」に足を踏み込んでいたのです。しかし、残念ながら(?)雷鳥さんにはお会いすることはありませんでした。

 今度、その友人を訪ねる際は、何処かにいらっしゃる雷鳥さんに失礼のないように気を付けたいと思います。

 

 さて、私の話にも既に飽きた方もいらっしゃるでしょう。それでは、お待たせしました。私、雪鳥はここでお別れさせて頂きたいと思います。ご機会があれば、またいつかお会いしましょう。そして、私の話にお付き合い頂き真にありがとうございました。

 

 次の部員の作品をどうぞ、ご堪能ください。

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